現地視察レポート(自主調査)
視察日:2024年6月4日~6日
G2E Asia[1]とAsian IR Expo[2]が2024年6月4から6日までベネチアン・マカオ[3]にて開幕された。
G2E Asiaは、アジアにおけるカジノ・エンターテインメント産業最大のカンファレンス&見本市として、世界中からゲーミング、エンターテインメント、統合型リゾート産業の業界関係者の訪れるイベントである。Asian IR Expoは、G2E Asiaと並んで、アジアにおける統合型リゾート(IR)産業に焦点を当てた大規模な国際展示会となっている。
両展示会は、アジア太平洋地域のゲーミングおよび統合型リゾート産業の最新動向を把握し、ネットワーキングを行う機会にもなっている。本稿はその視察レポートとしてイベントの概要を報告する。また、訪問した世界屈指のIRリゾートであるマカオIR・MICE施設等についてその概要や特徴をまとめる。
主要イベント:
- 1. 開会式:アメリカンゲーミング協会のCEOのビル・ミラー氏による基調講演
2. G2E Asia 15周年記念レセプション
3. プレジデントレセプション
展示会(6月4日〜6日):
- 出展社数:100社以上
- 展示内容:ゲーミング、エンターテインメント、統合型リゾート産業向けの最先端製品、ソリューション、技術
- 特設ゾーン:テクノロジーゾーンと新興ブランド向けステージ
- テックトーク:ホスピタリティ、顧客関係管理、ID管理(1日目)、セキュリティソリューション(2日目)
併催カンファレンス:
1. G2E Asiaカンファレンス
1日目:アジアのゲーミング市場の財務見通し、新興市場、タイ・中東市場
2日目:ゲーミング技術革新戦略、責任あるゲーミングフォーラム
3日目:規制アップデート、越境プレイヤー獲得リスク
G2E Asia Conference
Asian IR Summit
G2E:注目のパネルディスカッション
Smart Table: New Era of Cohabitating with Innovations (2024/6/5)[4]
業界メディアがファシリテーターとなり、カジノオペレーターからテーブルオペレーションの管理者2名(MGMおよびThe STAR)、SGT(スマートゲーミングテーブル)サプライヤーから責任者2名(AngelおよびWalker)によってこれからのカジノオペレーション(チップのやり取りなど物理的な要素が残るテーブルゲームに関して)について話し合われた。
1.SGTの利点
カジノ業界では、ゲーミングテーブルの動作を自動化する新しい技術が導入されつつある。SGTテクノロジーは、従来のアナログの動作をデジタルに変換し、ディーラーの動作をAIとカメラで追跡することで、さまざまな利点をもたらす。主な利点としては、1)運営効率の向上、2)不正行為の防止、3)マーケティングデータの収集、が挙げられる。自動化により大幅な業務効率化が期待できる。さらに、すべての賭け金の動きがデジタル化されるため、不正行為やマネーロンダリングのリスクが低減される。また、プレイヤーの賭け方の詳細データが収集できるため、的確なマーケティング施策が可能になる。
2.SGT導入の課題
一方で、この新技術の導入には課題もある。従業員の教育訓練が不可欠で、6ヶ月程度の準備期間が必要とされる(MGM)。また、一部の不審なアラートについては、その原因を分析し適切に対処する必要がある。さらに、プレイヤーのチップ共有の管理など、新たな運用面の課題も生じるとのことであった。
3.結論
「今後のカジノビジネスはSGTなしでは存続できない」だろうということ、また規制当局もゲームの公正性が高まり、プレイヤーの活動実態を正確に把握できることからSGTを肯定的に捉えているとのことであった(※オーストラリアでは、カジノ事業者に対して当該技術の全面導入を義務付ける動きもあるようである)。
2. Asian IR Summit カンファレンス
1日目:統合型リゾートの焦点(地域市場動向、最新トレンド、AIの可能性)
2日目:アート統合(ArtBiz Asiaとの共同開催)
3日目:スポーツ・エンターテインメント(スポーツツーリズム、アスリートIPの価値)
Asian IR Summit 注目のパネルディスカッション[5]
Macao’s Tourism Development Through Diversification (2024/6/4) [6]
マカオと中国南島の三亜の観光責任者、中国の旅行複合企業トリップ・ドットコム・グループの宿泊事業(香港・マカオ)責任者、マイクロソフト香港の国家技術責任者による「多様化によるマカオの観光開発」をテーマにディスカッションが行われた。
1. ポストコロナ時代の観光トレンド:個人化とサステナビリティ
マカオ政府観光局と三亜観光局の観光責任者らは、ポストコロナ時代の観光客は、大規模な団体旅行よりも少人数のグループで旅行する傾向にあると指摘。また、環境に配慮した観光体験を求める意識が高まっていることを強調した。また、三亜の事例では、サンゴ植え付け体験などの持続可能な観光商品が、観光客の滞在期間を延ばし、消費を増やすことに繋がっていることが示された。
2. 旅行者のニーズの変化:柔軟性と付加価値
旅行者は、パンデミックを経て、より柔軟な旅行プランを望むようになっている。特に、キャンセルポリシーの柔軟化に対する需要が高まっていることが、トリップ・ドットコム・グループの調査で明らかになった。また、旅行者は、単なる観光だけでなく、ソーシャルメディアで共有できるような特別な体験を求めており、旅行業界は、AIを活用して顧客一人ひとりに合わせたパーソナライズされたサービスを提供することが求められている。
3. マカオの観光回復と今後の展望
マカオ政府観光局は、2024年末までに観光客数を3,300万人に回復させる目標を掲げている。韓国、フィリピン、インドネシアからの観光客が大きく貢献しており、特に韓国市場は、大韓航空の新路線開設によりさらに活性化すると見込まれている。
参考
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G2E Asiaの概要
目的: アジアにおけるカジノ業界の最新技術やトレンドを紹介し、業界関係者の交流を促進すること。
内容:カジノマシン、関連機器、カジノ周辺産業に関する展示会に加え、業界の専門家による講演やパネルディスカッションなどが行われる。
開催頻度:毎年開催され、アジアの主要都市を会場としている。
参加者:カジノ運営会社、ゲームメーカー、関連企業の経営者や技術者、投資家など、業界関係者が世界中から集まる。
特徴:
・アジア市場への注目: アジアにおけるカジノ市場の成長が著しい中、G2E Asiaは、この地域におけるビジネスチャンスを探るための重要なプラットフォームとなっている。
・最新技術の展示: 新しいカジノマシンやゲーム、関連技術が多数展示され、業界の最新トレンドを把握することができる。
・ネットワーク構築: 世界中の業界関係者と交流し、ビジネスパートナーを見つける絶好の機会である。
Asian IR Expoの概要
目的:アジアにおけるIR産業の最新トレンドや技術を紹介し、業界関係者のネットワーク構築を促進すること。
内容: カジノゲームだけでなく、ホテル、レストラン、ショッピングモール、エンターテイメント施設など、IRを構成する多岐にわたる要素に関する展示や講演が行われる。
開催頻度:G2E Asiaと同時開催されることが多く、毎年開催される。
参加者:IR開発業者、投資家、建築家、内装デザイナー、エンターテイメント企業、テクノロジー企業など、IRに関わる幅広い分野の専門家が集まる。
G2E Asiaとの違い:G2E Asiaが主にカジノゲームや関連機器に特化しているのに対し、Asian IR Expoは、IR全体を包括的に扱っている点が特徴である。そのため、カジノ以外の分野、例えばホテルの設計や運営、エンターテイメント施設の企画など、より広範なテーマに関する展示や講演が充実している。
IRとMICE施設について
マカオの主なIR及びMICE施設
今回視察で訪れたマカオは、アジアを代表するIR(統合型リゾート)都市として知られており、世界最大級のカジノ市場を有している。MICE産業も活発で、IR施設内に大規模なコンベンションセンターを備え、国際会議[7] や展示会などを誘致している(※IRとMICE施設についての概要は下記表を参照)。
2018年10月に港珠澳大橋(Hong Kong Zhuhai-Macao Bridge)が開通。香港、珠海、マカオを結び、MICEビジネスの機会が拡大している。統計調査局によると、2018年の最初の3四半期にマカオ市内で合計966件のMICEイベントが開催され、参加者と訪問者は前年比14.8%増の138万人に達したとのことである[8] 。
また、珠海市の南端、マカオのすぐ隣に位置しコタイ ストリップから車でわずか5分に位置する横琴は、横琴粤澳深度合作区[9]として珠海国際会展中心(Zhuhai International Convention & Exhibition Center)[10]や横琴国际金融中心(IFC)[11]などの会場を通じて、約21,000平方メートルのイベントスペースと8,000のホテル客室を提供するほか、横琴曼洲湿地公園、横琴二金湾湿地公園、全長13.6kmの横琴花回廊などの名所があり、エコツーリズムやグリーンMICEの主要目的地となる準備が整っている [12]。
横琴口岸(HENGQIN PORT)
横琴澳深度合作区は3周年を迎えた
珠海国際会展中心(Zhuhai International Convention & Exhibition Center)
横琴国际金融中心(IFC)
「IRとMICE施設の比較」
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統合型リゾート(IR)
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MICE施設
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目的
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観光客誘致、経済活性化
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会議・イベントの開催、ビジネス交流
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施設
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カジノ、ホテル、ショッピングモール、コンベンションセンターなど
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会議室、展示場、大ホール、宿泊施設など
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ターゲット
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観光客、ビジネス客
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ビジネス客
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規模
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大規模
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中規模~大規模
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特徴
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エンターテイメント性が高い、多様な施設を備える
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会議・イベントに特化、ビジネス目的の利用が多い
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JTB総合研究所の資料
[13]を参考にWIP Japan作成
マカオのMICE施設と主なイベント
マカオにはいくつかの主要なMICE施設があり、それぞれが多様なイベントを開催しています。以下は代表的な施設とその主なイベントである[14]。
ギャラクシー・インターナショナル・コンベンション・センター(GICC)[15]
ギャラクシー・エンターテインメント・グループが開発した新しいイベント施設で、40,000㎡のフレキシブルなMICEスペースを持つ。
主な開催イベント:
- ミーティング&カンファレンス
- エキシビション
- コンサート
- スポーツイベント
ギャラクシー・アリーナ[16]
GICC内に位置する16,000人収容の屋内アリーナ
主な開催イベント:
- ワールドコンサートツアー
- スポーツイベント(ボクシング、MMAなど)
- 大規模なエンターテインメントショー
マカオタワーコンベンション&エンターテインメントセンター[17]
地上338メートルのタワーに隣接して会議・展示、シアター施設が揃う。
主なイベント:
- コーポレートイベント
- 展示会
- シアター公演
- バンジージャンプやスカイウォークなどのアトラクションを組み合わせたチームビルディングイベント
マカオの主なIR及びMICE施設
マカオでは、IRとMICE施設が緊密に連携しており、相乗効果を生み出している。IR施設内のコンベンションセンターで、大規模な国際会議やMICEイベント(展示会等)を開催されているのがその例として挙げられる。今回のG2E AsiaおよびAsian IR Expoもカジノリゾートであるベネチアン・マカオ併設のコタイエキスポホールで開催されている。また、ベネチアン・マカオおよび同じくマカオにおける代表的なカジノリゾートであるギャラクシー・マカオなどには、前述のコンベンションセンター以外にも大型高級ショッピングモールを備えている。
開催件数ランキング1位のシンガポールのMICE
マカオの「ICCAの統計(2023年)によるとアジア太平洋地域都市別国際会議開催件数ランキング」は20位であると上述(脚注7参照)したが、ちなみにそのランキングの第1位はシンガポールである。そこで参考として、シンガポールのMICEの特徴と「選ばれる」理由について以下にまとめる。
シンガポールがMICE開催地として高い評価を得ている理由は、政府による強力な誘致戦略、充実したMICEインフラとサービス、そして国際的な競争力と安定性の3点を挙げてみたい。特に、政府がMICE誘致を国家戦略として位置づけ、多額の予算を投じて支援している点が大きな特徴。これらの要因が複合的に作用し、シンガポールはアジアを代表するMICE都市としての地位を確立していると思われる。
シンガポール政府は、海外からの投資誘致の一環として、MICE誘致を国家戦略として位置づけているようだ[18]。通商産業省と政府観光局が中心となり、開催支援金や政府系ウェブサイトでの広告掲載など、多岐にわたる支援策を展開することで、MICE誘致に積極的に取り組んでいる[19]。
Marina Bay Sands[20]をはじめとする大規模なMICE施設や、空港からの優れたアクセス、ホテル、飲食店、エンターテイメント施設など、MICE開催に必要なハードウェアとSDGsに対応する[21]などのソフトウェアが高度に整備されている。
MICE誘致は国際的な競争が激化する中、シンガポールは、上述通りグローバルニーズに合致したハードウェアの整備と、多様なソフト面の支援策を組み合わせることで、高い競争力を維持している。そのうえで、政治的な安定性や治安の良さ[22]など、MICE開催にとって不可欠なファクターを備えている点が評価されている[23]。