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翻訳事典 (2011.1.15)

業界のビジネスモデルを変える翻訳マッチングサイト

翻訳会社による品質管理といったプロセスを経ず、サイトを利用し、翻訳の依頼主と翻訳者が直接仕事のやりとりをするビジネススタイルが定着しつつある。詳細をリポートした。



■ ユーザーと翻訳者をつなぐサイト

ここ数年、Web上の翻訳サービスが急成長中だ。機械翻訳ではなく、人の手による翻訳サービスを提供するサイトが活況を呈している。

ただし、これらは既存の翻訳会社によるものではない。翻訳を頼みたいユーザーと、仕事を求める翻訳者とをつなぐ翻訳マッチングサイトともいうべき新しいビジネスだ。

その最大の特徴は、「早さ」と「安さ」。Webの特性を活かし、翻訳会社が介在しない仕組みを構築することで、納期短縮とコスト削減を図っているのだ。

会社により、サービス内容により違いはあるが、基本的な流れは以下のようになっている。

まずユーザーは、インターネット経由で24時間、365日いつでも依頼することができる。サイト上には、事前登録された国内外の翻訳者が待機しており、内容を確認したら自ら仕事を受注する。翻訳会社のようにコーディネーターが調整するわけではないので、もし条件が合わなければ、案件自体が不成立になることもある。

一方で条件が合致すれば、稼働中の翻訳者がユーザーの依頼を直接受けるため、即時対応することができる。そのさいも、翻訳会社のようなチェックはない。訳文の品質管理や納期の厳守など、仕事を受けた翻訳者自身の責任において行うのも、既存のビジネスモ デルとは大きく異なる点だ。

翻訳マッチングサイトが、ユーザーにとって利便性の高いサービスであることは間違いないようだが、翻訳者にとってはどうなのか。そもそも、なぜ翻訳マッチングサイトのようなビジネスが生まれてきたのだろうか。


■ 「ちょっとした翻訳」への新たな需要

「機械翻訳では物足りない。かといって翻訳会社に頼むには、ボリュームも少ないし、コストがかかり過ぎる。周囲に語学の得意な人がいれば頼めるのに、と困った経験はありませんか。そんなちょっとした翻訳のニーズが増えています」

こう語るのは、ソーシャル翻訳「Conyac(コニャック)」を運営する株式会社エニドア代表の山田尚貴さん。確かに、ビジネスシーンでは海外の取引先からeメールが届いたり、外国人顧客から問い合わせを受けることも珍しくなくなった。日常生活のなかでも、ブログや SNS、Twitterなど、国境を越えてのコミュニケーションが活発に行われている。

夜中に届いた海外からのメールに急いで返信したい。専門的な内容ではないが、失礼のない文章にしたい。微妙なニュアンスのつぶやきを世界に発信したい……。既存の翻訳会社や機械翻訳ではサポートできないようなニーズが生まれ、これに応える形で、気軽に翻訳を頼める翻訳マッチングサイトが興隆してきたというわけだ。

翻訳マッチングサイトというビジネスは、既存市場のパイを奪い合うもの ではなく、これまで顕在化していなかったニーズに対応するなかで生まれてき た。新たな需要を掘り起こし、そのニーズを確実に取り込んで新規マーケット を創出することこそ、目指すところなのである。もちろん、それは翻訳業界 全体の活性化につながるはずだ。

そのために、各サイトではそれぞれの運営ポリシーに基づき、ユニークなサービスを次々に打ち出している。


■ 特徴のあるサービスを展開

日英翻訳で 1文字 0.9円という破格の低価格に目を奪われるのが、ソーシャル翻訳「コニャック」。翻訳が依頼されると、該当する言語の登録翻訳者が自由に翻訳し、先着 3名までが納品できる。納品した翻訳者には換金できるポイントが付与されるが、原文は240文字以内、1案件につき最大 3名で分割するので、ほとんど収入は期待できない。

それが成り立つのは、そもそもコニャックがユーザー参加型のサービスだからだ。スキルチェックはなく、言語を登録さえすれば誰もが翻訳を手がけられる。学生や主婦など必ずしも翻訳のプロが集まっているわけではないが、翻訳を軸にしたソーシャルなネットワークが形成され、世界 47言語に対応している。

「重視しているのは、人と人とのつながりです。一方で友だちに頼むように気軽に翻訳を依頼でき、他方では自分のスキルを使って人に喜んでもらうことができる。やはり語学力は磨き続けていないと衰えていきますから、スキルを使う場としても活用されています」(エニドア山田さん)

これに対して、GMOスピード翻訳株式会社が運営する「スピード翻訳サービス by GMO」では、プロ翻訳者による高品質のサービスを、インターネットならではのスピード感で提供することを重視する。

実務経験があり、トライアルに合格した翻訳者のみを登録し、毎月ランダムに納品した翻訳をチェックして品質を管理。翻訳者にはペナルティ制度を設け、基準に満たない場合は退会となってしまう。

翻訳依頼があると、原文の文字数や専門分野をもとに料金と納期が自動的に算出される。同時に登録翻訳者にメールが送られ、最初に作業申請した翻訳者が担当となる。100ワード以内の英日翻訳の場合、納品まで 30分。一般翻訳なら料金は 2,100円だ。

GMOスピード翻訳常務取締役の古谷祐一さんは、「個人をはじめ、企業、大学、官公庁などニーズは幅広い」と手応えを口にする。

「既存の翻訳会社のようなミニマムチャージも発生しない。プロの翻訳者にこの料金で頼めるならという、新しいユーザーを取り込むことができています。たとえば個人のお客様にラブレターの翻訳を依頼されたり、医師や大学教授から海外に出す学術論文の翻訳を依頼されたこともあります。なかには、ご自身でも翻訳できるものの、本業を優先するために対価を払ってでもアウトソーシングしたいというご要望もあるようです」(古谷さん)


■ プロへの道のりが見えてきた

将来的な市場拡大を見越して、業界内では翻訳者育成の動きも進んでいる。

翻訳業界で15 年の実績を持つWIPジャパン株式会社は、コニャックを運営するエニドアと業務提携し、2010 年11 月、翻訳マッチングサイト「手軽な翻訳市場YAQS(ヤックス)」を立ち上げた。翻訳者の実績と実力に応じて初級のCasual、中級のStandard、上級のPro という3 レベルに分かれ、レベルが上がるごとに単価も高くなる。

これまでは、たとえばコニャックで翻訳技術を磨いても実務経験とは見なされない、翻訳者になりたくても経験がないのでトライアル自体を受けられプロへの道のりが見えてきたない、というケースも多かった。ヤックスはその間をつなぐ翻訳者へのキャリアステップといえる。

コニャックでの実績次第でヤックスに登録でき(コニャック経由でなくとも、直接ヤックスの試験を受けることは可能だ)、ヤックスで実力が認められれば、WIP ジャパンからプロの翻訳者として仕事が依頼される。WIPジャパン代表取締役の福良雄さんは、こう語る。
「これまで、専門性を問われない小ロットの案件に翻訳会社がなかなか応えられなかったのも事実。現在、特にEC サイトが急拡大しており、海外向けショッピングサイトに載せる簡単な商品説明など、小ロットの案件がたくさん発生しています。これらはビギナーでも十分に対応可能ですし、自分の趣味や興味のある分野で、翻訳を練り上げる楽しさも感じられるはず。翻訳を楽しみながら、徐々に階段を上がっていってもらえればと思っています」

ビギナーからプロへのステップができたことで、会社に勤務しながらでも、実践的な経験を積むことができるようになった。その結果として、各レベルで翻訳者の層が厚くなり、幅広いニーズに応えられるようになれば、「需要が新たな需要を生む」(福さん)。安価なサービスをきっかけに、依頼する側も翻訳をプロに任せるメリットを実感し、より専門性の高い翻訳案件につながっていくことが期待できるのだ。


■ チャンスは自らつかみ取る

国内市場の縮小や新興国の急速な経済成長、IT の発展によるネットワーク化を背景に、あらゆる分野でビジネスのグローバル化が進む現在、海外との接点は確実に増えている。一企業内でも様々な翻訳が必要とされているのは間違いないだろう。

インターネットをベースにした翻訳マッチングサイトの仕組みは、広く不特定多数のユーザーに対応するだけでなく、特定ユーザーのニーズを総合的にサポートする形でも活用できるという。GMO スピード翻訳の古谷さんは、こう語る。

「たとえば、クライアントごとにその企業固有のプラットフォームを用意し、24 時間発注できるようにする。そこではクライアントが認めた専門性の高い翻訳者が常時稼働しており、スピーディーに対応してくれる。

クライアントにとっては、社員翻訳者を雇うコストを負わずに、いつでも専任の翻訳者から信頼できる品質の翻訳結果を得られますし、翻訳者にとっても、自分の専門性を活かして安定的に仕事を得ることができます。技術的にも、仕組みとしても、セキュリティを確保したシステムを構築できれば、これまで翻訳を外注することのなかった企業も、翻訳ビジネスに取り込んでいけると思います」

新しい形態のビジネスが育ち、様々なサービスが登場して、翻訳者の活躍する場は増えている。ただし翻訳マッチングサイトは、ユーザーと翻訳者をつなぐ「場」に過ぎないともいえる。仕事が増えたとしても、待っていては手に入らない。自ら仕事を取りに行く積極性、自分の手でチャンスをつかむ姿勢が、より求められるのではないだろうか。


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プロのマッチングサイト活用法

プロ翻訳者は、この翻訳マッチングサイトをどのように利用しているのだろうか。
実際、マッチングサイトに登録しているプロ翻訳者は少なくないという。しかし、低価格・短文の案件が多いこともあって、なかなか「メインの収入源にはなりにくい」(古谷さん)のが現状。今のところは、翻訳会社からの仕事を中心にこなし、手の空いた時期などに、サイトにアクセスするパターンが多いようだ。
それでも「プラスαの収入として月10 万円くらい稼いでいる人は多いですね」(古谷さん)。そのさい、自分の専門スキルを使って稼ぐのはもちろんだが、「少々単価が低くても、好きな分野だから受けるというケースもあるようです」(福さん)。考え方しだいでは、ハードルの低い案件から徐々に実績を積んで、仕事の幅を広げていくという戦略にも使えそうだ。
また、仕事の専門とは違う分野を手がけることで、「気分転換になったり、新鮮味を味わえるという人もいるようですよ」(山田さん)。
ひとつひとつの案件は小さいかもしれないが、いろいろな活かし方ができるのも、マッチングサイトの魅力のひとつかもしれない。





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